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2015年12月6日

3度のIPOを実現したCFOが語る!IPO準備とCFOの在り方とは?

2000年以降の15年間で3回のIPOを経験してきたCFOがいる。 株式会社U-NEXT 取締役・管理本部長の堀内雅生氏だ。
インテリジェンス、サイバーエージェント、U-NEXTと3社、3回に渡るIPO準備で培われた見識はどのようなものなのか? 堀内氏にその極意を聞いた。

堀内 雅生
株式会社U-NEXT 取締役 管理本部長 堀内 雅生

平成4年、日本インベストメント・ファイナンス株式会社(現:大和企業投資株式会社)、入社。平成7年より株式会社インテリジェンスにて経理財務部長、管理本部長、関連会社管理部長などを経験。平成10年株式会社サイバーエージェント創業時より監査役、平成21年より株式会社USEN。内部統制室長。平成22年よりU-NEXT取締役管理本部長、関連会社監査役などを歴任。各社にて計3回のIPOを経験。税理士、株式会社サイバーエージェント社外監査役。

INTERVIEW

宇野康秀氏と歩んだ20年-3社でIPOを経験

2014年12月16日、株式会社U-NEXTが東証マザーズへの上場を果たした。U-NEXTの代表取締役、そして、筆頭株主はあの宇野康秀氏。
宇野康秀氏と言えば、2000年代前半に脚光を浴びた堀江貴文氏など当時のIT系若手起業家たちの兄貴分として、そして、株式会社USENの会長を務める人物としてその名を知る人も多いだろう。

宇野 康秀

株式会社U-NEXT 代表取締役社長 宇野 康秀

この宇野氏が経営に関わってきたインテリジェンス、サイバーエージェント、そして、U-NEXTの3社において管理体制の構築や3度のIPO準備に関わってきたのがU-NEXTで取締役管理本部長を務める堀内雅生氏だ。

堀内氏は、1989年に宇野康秀氏や鎌田和彦氏(後のインテリジェンス代表取締役)、島田亨氏(現、楽天株式会社代表取締役副社長執行役員)らによって創業され、サイバーエージェントの藤田晋氏を輩出するなど、“人材業界の巨人、リクルート”に次ぐ人材業界の雄へと急成長を果たした株式会社インテリジェンス、同社社員であった藤田晋氏が創業し、インターネット業界の雄となった株式会社サイバーエージェント、宇野氏の家業・有線放送のパイオニアである株式会社USEN、そして、2010年に宇野氏を代表として設立された株式会社U-NEXTのそれぞれにおいて経理財務部長、監査役、内部統制室長、取締役など数々の要職を歴任している。

【堀内氏のIPOヒストリー】

2000年
株式会社インテリジェンス 店頭登録(現:東京証券取引所JASDAQ上場)
2000年
株式会社サイバーエージェント 東証マザーズ上場
2014年
株式会社U-NEXT 東証マザーズ 上場

歴戦の猛者である宇野氏をその懐刀のひとりとして支えてきた堀内氏。彼のキャリアやCFO職への持論を尋ねると快く語ってくれた。

INTERVIEW

突然ではありつつ、想定していたIPO -3度目のIPOはU-NEXT

会社設立時より想定していたIPO準備への着手

堀内氏にとっての3回目のIPO、U-NEXTのIPO準備開始の“ホイッスル”は思わぬところで鳴り響いた。2013年のゴールデンウイーク明けのこと、U-NEXTの社内ではIPOを目指す方針が宇野社長から打ち出された。

映像コンテンツ配信サービス・U-NEXTと光ファイバーなどのインターネット回線の販売代理事業を行っている株式会社U-NEXTだが、設立時は自己資本での経営を基本としIPOやエクイティでの資金調達を行う予定はなかったという。

しかし、2013年、U-NEXT事業の黒字転換をきっかけとして、事業環境の変化に対応しより事業を飛躍させるためにIPOを選択することとなる。
堀内氏はそれまでに2社のIPO経験もあり、上場企業での内部管理体制の構築・運用も経験し、IPO準備自体への抵抗はなかった。また、過去の経験から、あらゆる選択肢を想定し、実は、社内規定や稟議の体制など管理体制は上場基準に準ずる体制を意識して整備してあり、この意味では想定内のIPO準備開始であった。

「2014年内での上場を実現する。」
宇野氏の意向を受けて、同社は突然に、堀内氏は突然ながらも想定内の事象としてIPO準備を始めることとなった。結果、U-NEXTはその1年半後という驚くべきスピードで見事、東証マザーズへの上場を実現することとなる。

U-NEXT社のIPOスケジュール

キックオフ
2013年5月
申請期
2014年9月(2014年12月期の第3四半期決算)
東証への申請時期
2014年9月中旬場
上場承認日
2014年11月12日
上場日
2014年12月16日

現在、動画ストリーミングサービスの分野では、米国大手のHulu(フールー)が存在感を増し、2015年9月にはNetflix(ネットフリックス)やAmazonが日本での動画配信サービス開始を発表している。

今回のIPOは、急な日程ではあったが、2014年中にIPOによる資金調達を実現できたことは結果的には彼らに対抗するU-NEXTにとって良いタイミングであったと言えるだろう。

INTERVIEW

時代を先読みした動画配信事業 -U-NEXTでの再始動

インターネットで動画を楽しむ時代を 映像コンテンツ配信への夢

U-NEXTのIPO準備作業について語る前に、同社の成り立ちについても触れておこう。
U-NEXTは、2009年にUSENの事業のひとつをスピンアウトして設立され、「映像コンテンツ配信サービスと「インターネット回線の販売代理」の2つをコア事業としているが、この両事業には2000年代前半にまで遡るUSENの想いが込められている。

映画やドラマ、アニメなど100,000本以上が視聴できる動画ストリーミングサービス・U-NEXT<ユーネクスト>
有料での音楽放送サービスである「有線放送事業」をコアに、世界で初めて光ファイバーによる一般家庭向けのブロードバンド通信事業の事業化を実現し、2001年にナスダック・ジャパン(現:東京証券取引所JASDAQ)市場に上場したUSENだが、実は当時からインターネットでの映像コンテンツ配信事業も始動させていた。

「いずれインターネットで動画を楽しむ時代が来る。」

時代の先を読んだ構想である。
しかし、今でこそ高速でのデータ通信が可能な光回線によるインフラが普及し、また、パソコンはもちろん、スマートフォンやタブレットなど様々なデバイスで動画を楽しむことができる環境となりつつあるが、当時はまだその状況ではなかった。 そこで、いずれ来る時代に備え、USENでは自社でのブロードバンド通信事業を展開し、映像コンテンツ配信のためのインフラの整備から携わっていったのである。

そして、2005年には満を持して無料動画サービス「GyaO(ギャオ)」をスタート。USENは順調に映像コンテンツ配信事業を拡大させていく…はずだった。しかし、2008年、そんなUSENに転機が訪れる。

リーマン・ショックを発端とした世界規模での信用収縮、それに続く大不況により、子会社の評価減などUSENの財務状態が悪化し、大規模な方向転換を迫られることとなったのだ。

それに伴い、USENは数々の事業再建策を実施。ISP事業をso-netに売却、2008年に子会社となった株式会社インテリジェンスを投資ファンドに売却、ブロードバンド通信事業のインフラを担っていたUCOMを投資ファンドに売却、残ったインターネット回線の販売代理事業と映像コンテンツ配信事業もリストラを迫られることとなった。

当時のUSENにとって映像コンテンツ配信事業は赤字とは言え同社の未来を担う重要事業。経営陣は事業の継続を模索したが、意向叶わず同事業もリストラのターゲットとなってしまう…
「当時は“映像コンテンツ配信事業はなかなか厳しいのではないか”、周囲からはそう思われていました。」堀内氏はそう振り返る。

“U”の系譜-USENの動画事業を分離して設立

USENでは継続できなかった映像コンテンツ配信事業であるが、2010年、同事業をインターネット回線の販売代理事業とともにUSENからスピンアウトした株式会社U-NEXTが設立され、事業は存続されることとなる。

USENはU-NEXTの全株式を宇野氏に譲渡し、宇野氏が代表に就任。事業とともに約250名の従業員がUSENから移籍し、堀内氏も取締役として参画することとなった。
映像コンテンツ配信事業を成功させるため、U-NEXTは形を変えて生き残ることとなったのである。

INTERVIEW

未経験者ばかりの管理部門からスタート-IPOドリームチームの招集

かつて共に仕事をした“仲間達”を招聘

話は戻り、2013年のゴールデンウイーク明け。IPOへのゴーサインを受けた堀内氏はすぐさまチーム作りにとりかかる。U-NEXTの設立当初、事業部門だけで独立したため、管理部門には経理や人事などの管理実務の経験者は皆無だったという。また、IPOも計画していなかったため、2013年時点でも同社の管理部門は最低限のメンバーによって運営されており、IPO準備といっても決算・開示・監査といった専門的な知識・経験を有する業務については、対応できるメンバーがいない状況であった。

しかし、社長から示されたIPOのターゲットは2014年内。
短期間での上場を実現するには、まずはメンバー集めからはじめないと・・・、堀内氏は、そこから、IPOに向けて管理部門に必須となる「経理部長」「内部監査室長」「常勤監査役」を次々に招聘し、IPOに向けたメンバーの確保に迅速に取り掛かる。経理部長はインテリジェンスから、内部監査室長はUSENから、常勤監査役はUSENから独立した経営コンサルタントを招聘しチームを組成した。

「当時の管理部門はそれぞれのメンバーが2年ちょっとの業務経験がある程度でしたので、IPO後に必要な実務を理解していて、かつ、マネジメントと実務の両方をこなせるプレイングマネージャーが必要でした。ただ、そのレベルの人材を公募で採用するのは簡単ではありませんし、また見つかったとしてもIPOまでの限られた時間軸の中でスキルの見極め、更には信頼関係を築きIPO準備を進めていくのは難しいと考えました。」

そういった考えから、堀内氏はかつて仕事をともにした仲間の中から、“ともに苦難に立ち向かうことの出来るメンバー”を招聘してきたのだという。

堀内流・招聘のポイント

IPO準備企業の要職となるメンバーを自らの人脈だけで揃えるのは簡単ではない。堀内氏の招聘術は何が違うのだろうか?今回のメンバーの招聘も一見すると「過去の在籍企業から知り合いを引きぬいただけ」のように見えるが、実はその手法や人選にも経験者ならではの工夫がなされている。

堀内氏の話によると彼は下記の2つを意識して人選を行ったという。在籍元に迷惑をかけない、礼儀を忘れないU-NEXTに移籍することによって彼らのキャリアにもプラスになる人材を対象とする

まず、堀内氏は招聘する人材が在籍している企業への影響が最小になることを強く意識している。特に今回はいずれも堀内氏が過去に仕事をしてきた企業のメンバーが対象でもあったため、円満に移籍してもらうために、相手企業の組織に大きな問題を起こさないことを確認し、相手方の上長への挨拶など礼儀面も怠らず招聘を行ったという。また、堀内氏は今回、実力があって、本来ならより上の役職を担えるはず、と確信した人材に「今までの経験を活かして、今度は当社で部門のトップをやらないか?」と声をかけている。招聘するメンバーにより魅力を感じてもらい、彼らのキャリアにもプラスにしてもらいたいという思いからだ。

「私が声をかけて、運よく来てもらったメンバーたちではありますが、私の実力というよりも、代表取締役の宇野と一緒にやりたいというのがやはり大きかったと思います。」堀内氏はそう謙遜するが、こういった関係者への気遣いや配慮がビジネスの要所において優秀な人を扱うと同時に、機動的に動かすコツなのかもしれない。

20代からの人脈 IPOを支えた支援者たち

U-NEXTのIPOにおいては、大和証券が主幹事、監査法人トーマツが監査人を務めた。また、本誌でもおなじみのBridgeグループがコンサルタントとしてIPO支援を行っている。

U-NEXTのIPO関係者

主幹事証券
大和証券
監査人
有限責任監査法人トーマツ
IPO支援
Bridgeグループ

この支援者の選定も「過去の経験やつながりの賜物」だと堀内氏は語る。
堀内氏は、過去2回のIPOや上場企業の役員経験から、証券会社や監査法人、コンサルタントなどとの幅広い人脈を有する。また、その人脈もビジネスライクさより人間味を感じさせる。堀内氏は、普段の仕事で関わるメンバーのことを「お金を払って仕事を依頼する関係だけではなく、それ以上の関係がある人たちだ。」と表現する。

堀内氏がまだ20代、インテリジェンスにてIPO準備を行っていた頃、そこに1年目の新人として現れ初めてのIPOとその後の上場企業としての会計監査で苦楽をともにした若手会計士、彼は今、マネージャーとしてU-NEXTの監査の現場を統括してくれている。その上司となる代表社員もインテリジェンスとサイバーエージェントにIPO時から関与し、その後一時期USENも担当し、宇野康秀氏とも親交のある人物である。

そして、主幹事証券を決める際、彼がコンタクトをとったのは、堀内氏が新卒で入社したVCにいた頃にお世話になった親会社の先輩だった。当時の先輩の一人が偶然、大和証券の未上場企業への営業を担当していた。

「良い仕事をしていくためには、お金払っての関係でなく、お互いの信頼関係をもって仕事ができる人たちを増やすことが大事だと思っています。思い返せば今一緒に働いている人たちの多くは20代からの知り合いで、皆それぞれ何かしらの仕事上の関係があったのですが、それだけで終わらせずにお世話になった方々には普段から年賀状を欠かさず出すなど関係性を続けていくことを大事にしていました。ちなみにお酒やゴルフでのお付き合いは苦手でほとんどしていません。

「20代からのつきあいを地味に大事にしてきたら、運のいいことに、気がつけばみんな偉くなっていました。それにしても今回は偶然ではありますが、本当に周りの方に恵まれたと思います。

そう語る堀内氏だが、それは決して偶然ではなく、彼が周囲の人達との縁を人一倍大切にしてきた結果であろうと感じさせる。こうして、社内外ともにU-NEXTのIPOに向けて必要なメンバーが揃ったかに見えた…

それでも足りないIPOプロジェクトメンバー

堀内氏の人脈のもと、瞬く間に集まったU-NEXTのIPOプロジェクトメンバーであったが、堀内氏の中ではまだ不安が残っていた。

「もうひとり即戦力が欲しい」IPOまでの期間やボリュームを考慮すると、IPO準備を即戦力でこなせ、かつ、会計に強い人材をもうひとり置きたいというのが堀内氏の本音だった。当時の経理部門は、経理部長、リーダー、スタッフの正社員3名、それに派遣社員などの補助スタッフ2名という体制であった。

それに対しU-NEXTの規模は、連結売上高150億円、本社に加え7社の関連会社(連結子会社5社、持分法適用会社2社)があり、そのうちの1社を除いてすべてをU-NEXTの経理部でカバーしていた。「ボリュームある作業をこなすのはもちろん、連結決算に当たって生じる数々の論点をこなすことも考えると、さすがに現場の負担が重すぎる。

しかし、上場後も見据えると一時的に業務量が増えるIPO準備のためだけに人材を増やすのは得策ではない…
堀内氏は悩んだ。そんな時、経理部長からある提案があった。

「前職のインテリジェンスで付き合いのあったコンサル会社なら信頼でき、かつメンバーも若く力になってくれるかもしれない。」経理部長が前職にて業務を依頼していたコンサル会社の中に、即戦力の若手会計士を派遣し、決算・開示などの業務を支援してくれる企業があるというのだ。斯くしてBridgeグループが加わることとなる。

Bridgeグループ COO・大庭氏(左) CEO・宮崎氏(右)

公認会計士ナビの読者であれば過去の記事でご存知かと思うが、BridgeグループはIPOコンサルティングや決算・開示、管理部門構築支援に強みを持つコンサルティンググループだ。近年のIPO市場の活況の中でも数々の企業のIPOを支援している。

「Bridgeに依頼するとすぐに即戦力の若手会計士を派遣してくれました。監査経験がありかつ実務に長けた会計士が我々と一緒に各論点をどう処理するかを考えてくれ、また、理論的な大枠を捉えた上で実務に落とし込んで業務を牽引してくれました。 お支払する報酬についても即戦力人材を常勤で1名雇用するコストと同程度であり、IPO準備の段階で豊富に資金がある状況ではない我々にとっても、十分に負担できる範囲内でした。」
堀内氏はBridgeへの印象をそう語る。

INTERVIEW

IPOコンサルタントが語る、U-NEXTのIPO

堀内氏とその信頼できる仲間たちによって実現されたU-NEXTのIPOであるが、どこがポイントであったのだろうか?IPOコンサルタントとして支援した株式会社BridgeConsulting、取締役COOの大庭崇彦氏にポイントを聞いた。

大庭 崇彦
株式会社BridgeConsulting 取締役 COO(公認会計士・税理士) 大庭 崇彦

2006年、公認会計士2次試験合格。有限責任監査法人トーマツ・トータルサービス1部を経て、2011年10月Bridgeグループ参画。株式会社BridgeConsulting、取締役COO就任。

ふたつの大きな論点

大庭氏によるとU-NEXTのIPOにおいて大きな論点はふたつあったという。ひとつめは、「過年度情報の整理」だ。
U-NEXTは、設立して6期目の上場(内、決算期変更があるため実質的には5年未満での上場)であり、設立当初からIPOを想定し管理体制は整備していたとはいえ、決算に関してはやはり税務会計が中心。IPO準備の段階で集まったメンバーが、当時の資料を一つ一つ引っ張りだして、修正を加えていくといった膨大な作業にとても苦労していたという。

ふたつめは、「過去の組織再編に関連する処理」だ。
U-NEXTはUSENからスピンアウトして設立された企業であり、設立後のUSENからの事業譲渡に関連する処理に特徴があったため検討を要する事項があった。一方で、大庭氏は「予算管理や稟議の体制に関してはかなり整備されていたのでこの点の仕組み化については、ストレスなくスムーズだった」と感想を語る。
これに関して、堀内氏は“会社設立時から想定してあったのが功を奏した”とその背景を語る。

「当社の設立時にはIPOの予定はありませんでしたが、どういった状況にも対応できるように予算管理や稟議は上場を目指せる体制を意識して作っておいたのがスムーズに進んだ要因です。ただ、それ以上に、当社はUSENという上場企業から移籍してきた従業員が中心で、彼らが予算管理や稟議に慣れていたのが良かったと思います。ベンチャーがIPOを目指す際、規程整備はもちろん大切なのですが、規程や仕組みがあっても従業員がそれに適応できなければうまく機能しませんので、従業員が上場企業のスタッフとして振る舞えるかどうかということも重要です。」

IPO準備においてCFOはどうあるべきか?

IPO準備と言えば、数々の成長企業が直面するイベントの中でも最も困難なもののひとつである。 しかし、U-NEXTでは、人材集めや社内体制の整備などベンチャー企業が苦労する部分においては堀内氏の手腕もあり、(表からは見えない苦労はもちろんあるであろうが)比較的にスムーズに乗り切っている印象がある。

数々のIPOを支援してきている公認会計士からは堀内氏はCFOとしてどのように見えたのだろうか? 大庭氏に尋ねると堀内氏に対する印象をこう語ってくれた。

「内氏と直接お仕事をご一緒させて頂くのは初めてでしたが、“初めての付き合いにも関わらずいろいろと任せられているな”と業務の節々で感じる部分があり、アウトソーサーとしての責任感と同時にやりがいも感じながら業務を展開していくことができました。 経歴をみれば現場の誰よりも経験豊富、かつ既に2社のIPOを経験されている方であるにも関わらず、現場実務の方と対面にて丁寧に向き合い、各担当者の長所を引き出しながら指示をされていた姿が目に焼き付いています。

CFO業務とは一見華々しくも見られがちですが、IPO準備段階の会社においてはとても“泥臭い業務”が多く、この “泥臭い業務”に対して堀内氏のように率先して向き合い、リーダーシップを発揮しつつ自らがしていく、あるいは部下に解決させていく姿は、IPO実務を牽引していくCFOにはとても大切な要素なのだと感じています。」

そして、堀内氏当人は自らのマネジメント手法やCFO論を以下のように語ってくれた。

「普段は現場の仕事はすべて部長に任せています。ただ、全体像を俯瞰することは意識していて、それぞれの作業はしっかりできていても、全体で合わせた際に整合性を持たせなければなりませんので、時に現場に下りて行ってずれが生じないよう補うことを意識しています。そういう横断的な問題が実はかなり多いのですが(笑)。

上場を目指す企業で管理体制を作る際には役員と現場の役割分担のバランスが重要ですが、現場が正確に実務をこなし、役員が全体を整える役割を担っていると証券会社の人も安心だと思います。

また、私は、CFOは事業に積極的に踏み込むのではなく、黒子に徹するのが良いと思っています。
“事業も仕切れるCFO”というと見栄えもよく、投資家にも受けるかせんが、やはり事業は事業担当役員が上手(うわて)ですし、“財務が偉い”という組織では事業に革新が生まれないと思っています。

さらに言うとCFOという言葉も何だか地に足がついていない感覚がして、好きではありません。人事や総務も担当していますし(笑)。CFOはあくまで現場を立てて、財務面から事業をサポートする立場。財務面を担当している以上、実際の組織の中の権限は序列に関係なく強い権限があるのです。ですから逆にCFOはそういう“力”に便乗してはいけない。その意味で“前に出たい、目立ちたいという気持ち、自己顕示欲が強すぎない人”のほうが良いのかなと考えています。」

INTERVIEW

退屈な作業にこそ大切なことが隠れている

若手会計士へのメッセージ

堀内氏のようなCFOを目指すためには何を意識してキャリアを積んでいけば良いのだろうか? 堀内氏は最後に、若手会計士に向けて次のようなメッセージをくれた。

「若い時は上の人を追い抜くことを考えて仕事に取り組むくらいが良いと思います。少なくとも上の人にぶら下がらないように。
そして、自分が上の立場になった時に下の人たちに威張るような人間にならないように若い時から意識しておくことも必要だと思います。
40歳を過ぎると年下の人たちとの仕事が増え、彼らへの接し方次第で自分の仕事だけでなく企業文化や、その企業の将来まで変わってきます。

でも経験があるからと威張ってしまっては、コミュニケーションが断絶し正しい情報が収集できなくなり、誤った経営判断を下してしまう可能性があります。
長期的に強い組織を作ろうと考えたら、そうした社員の力をどう活かすかが重要になります。なので、自分が40歳や60歳になったとき、若手をどうリードし、またはサポートする人間になるのか、それを考えながら若い時間を過ごすと良いのかなと思います。

少なくとも私は若い経営者の力になることにもやりがいを感じますし、そういう価値のある人間になりたいと思い、日々仕事に向き合っています。試験合格組として税理士登録もしているので、有資格者ならではの視点なのかも知れないですが。

また、私は、会計士というのはすごく良い仕事だと思っています。
会計士の人と話していると“監査は退屈だ”という話を聞くことがあるのですが、私はそうは思いません。私の持論として一見、退屈に感じるような作業や下積み作業にこそ大切なことが隠れていると思っていて、例えば、会計であれば伝票こそが会社の動きを表していて、情報の宝庫であったりもします。税理士と違って上場企業と仕事をするフィールドが普通にあることも自らの知見を広める意味で大きな魅力だと思います。

“監査は作業だから退屈”、“コンサルのほうがカッコいい”と安易に考えるのではなく、コンサルに行くにせよ、監査で現場のことをしっかり理解して経験を積んで飛び出すのが良いと思います。そうでなくては、経営者に受けが良くても現場と咬み合わないコンサルタントになってしまいます。

クライアントの経営陣も現場も喜んでくれる提案や作業ができるのは、現場の細かいことを知っているからこそです。私も仕訳や給与計算、税務申告や契約書作成などの地味な実務を数多く経験したことで、社内の事例ではありますが現場が動きやすい業務指示を行えています。

“せっかく難しい試験を通ったのだから早く難しい仕事をしたい”というのではなく、高度な資格を取得したからこそ、まずは現場の基本を大事にして細かいことをコツコツやる、そこからいろいろな「勘」が育まれます。これが意外と将来役に立ちます。一方で将来、経営の立場で仕事をする時のために常に大局を見失わないようにすることを忘れないで下さい。ぜひ、広い視野を持ちながら各論も理解できる会計士を目指してください。」

※記事内容は、インタビュー実施時期に基いて作成しているため、会社名・役職等にその他一部の内容が現時点と異なる場合もあることをご了承下さい。

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